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最高裁判所第一小法廷 昭和47年(オ)674号 判決 1972年11月02日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岩井淳佳の上告理由について。

土地の抵当権設定当時、その地上に建物が存在しなかつたときは、民法三八八条の規定の適用はないものと解すべきところ、土地に対する先順位抵当権の設定当時、その地上に建物がなく、後順位抵当権設定当時には建物が建築されていた場合に、後順位抵当権者の申立により土地の競売がなされるときであつても、右土地は先順位抵当権設定当時の状態において競売されるべきものであるから、右建物のため法定地上権が成立するものではないと解される。また、右の場合において、先順位抵当権者が建物の建築を承認した事実があつても、そのような当事者の個別的意思によつて競売の効果をただちに左右しうるものではなく、土地の競落人に対抗しうる土地利用の権原を建物所有者に取得させることはできないというべきであつて、右事実によつて、抵当権設定後に建築された建物のため法定地上権の成立を認めることはできないものと解すべきである。本件土地につき訴外株式会社北洋相互銀行のため順位第一番の根抵当権が設定された当時、その地上に建物が存在しなかつたことは、原審の確定したところであり、同相互銀行がその後に建築された建物二棟について別個に根抵当権の設定を受けた事実をもつて、所論のように右建物のための土地利用を容認したものと解するとしても、これによつて土地の競売の場合に法定地上権が成立するものと解することはできない。したがつて、上告人の法定地上権の取得の主張を排斥した原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、違憲をいうが、実質は、右判断につき、民法三八八条の解釈適用を誤つた違法を主張するに帰するものと解されるところ、右判断に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤林益三 裁判官 岩田 誠 裁判官 大隅健一郎 裁判官 下田武三 裁判官 岸 盛一)

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